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木愛の会2周年記念シンポジウム(2008.12.20)

「木」という素材で、日本の新しい景観を生み出す

河井敏明氏(1級建築士事務所 河井事務所 主宰)

 90年代、環境問題がクローズアップされ、建築はどちらかというと、環境にネガティブなものという捉え方をされてきた。しかし私は、環境問題が建築の未来を拓くのではないか、ポジティプな関係としてとらえ直したいと思い始めた。その考え方に、素材としてリンクしてきたのが木だった。
  環境問題には、まずCO2吸収の問題がある。CO2吸収は、植物の光合成が基本的に唯一の方法論。ということは、建築行為において、建材の中でCO2を減らす可能性を唯一持っているのは木。極力、地場に近い木を、なるべく生のままで使うということになる。
  設計した京都四条木製ビルは、四条烏丸、ビジネスエリアの中心にあるが、間伐材を外壁に使った。11立米、CO2で言うと8トン分。(耐火建築を)外壁を木で覆った事例としては日本で二つ目である。
  このビルについて、多くの人から質問されたことが、「耐久性はどう?」ということ。その背後にあるのは、木は耐久性がないと思われている。私が京都にいて直感的に感じるのは木には耐久性がある。京町家の木の外壁で、5〜60年のものはかなりある。翻って烏丸通にあるビルで50年同じ外壁のビルはほとんどない。よくもって30年。だから木の方が耐久性は十分にある。ただし、それには意識を変える必要がある。年月を経て、古くなった木でも美しいと認める意識が必要だ。そうすれば、木を相当の年月使うことができる。
  そして、新しいマーケットをつくることも大切だ。日本は国土の7割が森林であり、国土の3割が人工林。木が売れずお金がないために人工林に手が入らなくなっているのは環境問題としても本当に大きな問題だ。都心のビル外装という新しいマーケットをつくることでこの問題に貢献できると考えている。

  去年、京都の景観条例が変わった。烏丸通で言うと高さが45mから31mに規制された。景観も一つの環境。景観を京都市のテーマとすることは当然だが、中高層の近代的な街並みにおいて、どういう手法が有効か、答えは出ていない。つまり、45mが31mになれば京都らしくなるのか。さらに景観誘導として付庇をつけるというものもあるが、ただ付庇をつけるだけで、美しい景観がつくれるのか。私は21世紀の京都の景観を木という素材で見直して、日本の新しい景観をつくりたいと考えている。今、自分が考えられるベストを尽くして設計したけれども、この建物が最終的で、決定的とは思っていない。むしろこれをきっかけにみんなで木で創ることをさらにリファインしていってもらえれば、その集積が美しい景観となると信じている。未来への提言と受け止めてもらえれば幸いだ。

  建物のデザインのあり方としては、日本の様相――透けて気配を感じるものを意識したこと、そしてインターフェイス、手ざわり、質感を大切にした。そこに帰ってきたとき木がいかに心地いい材料か感じられること。このビルの前に立つとなんだか気持ちがいい、木が持っている独特のインターフェイスを生かしたい。それは数値化できないかもしれないが、人間の体は最高のセンサー。それを信じて、設計者として、まじめに、木がいかに素晴らしいか言っていきたいと思っている。


京都四条木製ビル


京都四条木製ビル


京都四条木製ビルの中の「立体路地」
(写真はすべて河井氏提供)

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