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木愛の会2周年記念シンポジウム(2008.12.20)

新しい構法で、木の建築を発想する 

平沼孝啓氏 (Hs WorkShop-ASIA 主宰)

 70年前後に生まれた僕たちの世代は、学生時代に日本経済空前のバルブ景気を迎えました。学校で設計に挑んだ課題はコンクリート建築。コンクリートを使ってどのような意匠的建築空間をつくるかを求めてきた世代です。この頃、伝統的な木造建築、例えば桂離宮を見ても、技法がいいのか、古いからいいのか、周辺の環境がいいから良いのか、よくわからなかったのです。だから、これまでの木造建築には、建築史としての学術的な捉え方以外、僕は興味を持っていませんでした。
 今から約4年前の2005年、日本住宅・木材技術センター主催の「新しい構法による間伐材等を活用した住宅の技術開発設計競技」に参加する機会に恵まれました。ここで、社会問題となっている小径木の間伐材に、どう木造建築としての新しい構法提案を柔軟に考えていけばいいのか、とても悩んでいました。
 設計競技では、新しい構法の提案をするものですが、僕は始めに木のことや、工法そのものを考えていくのではなく、人の住まい方がどう社会の中で変わっていくのか、ボンヤリと考えていました。この時にケーススタディとして、都市の狭小な土地を想定し、大工さんが木を運び人の手でつくっていけるような建築ができないかと考えていたのです。また、その作り方から、空間を囲う薄いレンガブロックのような構造体としての木壁をイメージしていたため、この壁が開口部を兼ねたものとなって、外部と内部の薄い領域となる物質となってほしいとも感じていました。
 この提案は運良く、結果として国土交通省住宅局長賞に選ばれ、その後、提案した新しい木造の新構法を実験・実証するために専門委員会が設置されました。2年ほどの間、検証していき、その結果、昨月の11月(2008年)、東京大学(駒場キャンパス)に「くうかん実験棟」として完成するができました。

 それがこの「木造ブロック積層構法」による建物です。

 素材断面寸法38_×89_、51_×89_の木材を、強度品質の面からL型にビス留めによる接続します。これらふたつのL型の材を13_の二つ隙間を持たせながら組み合わせた断面、89_×178_を長さ300_単位でモデュール化し、隙間を設けながら積み、タイロットで圧締しながら立体的な壁面から屋根まで一体的に組上げる手法です。積み上がった壁の内部には「隙間」が生まれ、この隙間にガラスを嵌めることで光を取り入れ、材の隙間から空気断熱効果も発揮する。この新構法で架構した空間は、木材の軽量性を活かしつつ耐力を確保し、かつ均質な層に設けた隙間からランダムな光を空間にもたらす。つまり、季節や時間によって、多様な光の表情をもった新しい木質空間を取得することができたと感じています。

 また、この建物の設計中に持った目的は3つ。1つめは在来工法のような軸組みによる木造建築ではない、新構法による木造建築の実現。2つめは基礎や屋根まで、出来る限り、建築材料として冷静に、木材を使ってつくる。3つめは、サスティナブルな建築のあり方のひとつとして、その建築がモビリティ、移動できるようなものにしておきたかったのです。基礎について現行の建築基準法をクリアするのは大変だったのですが、「地球が呼吸できるように」、基礎はコンクリートを打設せず、砕石を敷きつめた上に、枕木→木造布基礎を設置。屋根上の太陽電池パネルで、建物の消費電力も確保することができました。

 こうした取り組みの中から、山登りにも興味のなかった僕が、実際に和歌山県の山中に入りました。荒廃した山中に、捨てられている間伐材を見ながら、この小さな木材のユニットを積み重ねた構法や、既成概念に捉われない、たくさんの建築家や木の生産者の発想によって、間伐材や小径木材の利用や普及も可能だと感じています。

 いつか機会があれば、原野の中に建築をつくりたい。それは、今までの(近代〜現代)につくられた建築のように、自然から守るだけの空間ではなく、この建物のように自然素材の空間で、光や風という自然に向かう建築をつくっていきたいと思っています。


くうかん実験棟外観


くうかん実験棟内観


くうかん実験棟内観
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