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木愛の会講演会(2009.10.24)

「木の建築の可能性を探る」 

講師:腰原幹雄氏(東京大学生産技術研究所准教授 木質構造学)

 10月24日(土) 講師に腰原幹雄先生をお招きして、「木の建築の可能性を探る」と題して講演していただきました。主催は、木造都市の復権と木の良さを広めようと活動している、木造都市研究会「木愛の会」です。講演は大変幅広い内容で語られたので、少し掘り下げてお聞きしたかった部分は、住宅建築2008年12月号に掲載された「近代木造とは何か」から引用しながら、まとめさせていただきました。

  冒頭、西洋も昔は木の文化であったが石の文化だけ残った。日本は食器のお椀やお箸に 木の熱伝導率の低さを活かし、手に持ち口に付けられる文化を根付かせたが、西洋のスプーンや金属食器は熱伝導率が高く、手に持ったり口に付けられず、テーブルに置いて食べる文化が根付いたことを例に、日本の木の活かし方の一端に触れられました。

<木造建築の分類>
  時間軸と建物規模で木構造建築を分類し(図1)、それぞれの構造的特性、伝統木造から現代の木造建築を展望する内容から話された。
  木造建築では、鉄筋コンクリート造、鉄骨造と異なり横軸(時間軸)を評価する。通常構造工学の視点で考えれば、過去の技術は未熟な技術と考えられるが、木造建築の場合には、大工、職人の経験と勘によって建物が造られており、現在の工学では良否を判断できない技術があり過去の技術、経験から学ぶことは多い。このため、伝統木造の技術も現代の技術と共存している。
  図の中の、各木造建築の構造や特徴を話された。その中の一部について記します。

 集成材建築
―集成材の登場と共に、1980年代から建てられた平面的に大規模な木造建築。体区間や美術館、博物館などが建設されている。ラーメン、壁、トラスマッシブホルツ、HPシェル、ヘビーテインバーなどほとんど全ての構造形式が可能。

 現代木造建築
(建築家)― 戸建ての木造住宅を中心に、構造解析、EW(エンジニアーウッド※)の登場により、さまざまな構造形式の木造建築が建てられている。ラーメン構造、シェル構造、壁式構造、トラス構造、組石構造などほぼすべての構造形式の木造建築が設計可能となっている。

 高層木造建築
― 2000年の建築基準法改正により、平面的に大規模なだけでなく、高いあるいは多層の木造建築が建築可能となった。森林資源の有効利用を含めた木造建築の未来象が考えられている。

 近代木造建築
は、1900年〜1950年ころに建てられた木造建築を近代木造建築と分類する。建築基準法が制定される直前であり、明治以降に西洋から入ってきた構造工学の影響を受け、洋小屋、トラス、金物接合が用いられている。産業建築として工場、倉庫などでは、4階建て、5階建てなどの中層木造建築事例(写真1,2,3)も多くみられる。建築基準法制定により、大規模な木造建築の建設が禁止されたため、以降、学校建築などの低層で大規模な建築として引き継がれることになる。メンテで持続再生、手を入れれば1000年持たせることも可である。
  建築基準法制定以降1987年の、高さ制限緩和までの間が、空隙期となり技術の進化がない。2000年の建築基準法改正で、木造耐火建築物が可能となって木造の階数制限はなくなった。技術的にも可能であるが、多層建築はほとんど建てられていない。

<木質材料を用いた耐火部材の考え方について>
  防火が分らないと構造設計できない時代である。1時間耐火認定は、@、石膏ボードなどの不燃材で被覆 A、鉄骨など燃え止まり部材を挿入 B、不燃材料とのハイブリッド化、があり、ハイブリッド木造5階建て金沢Mビル(構造設計に携わる)や同じくハイブリッド木造5階建ての当講演会場の丸美産業ビル、現在進行中の世田谷下馬集合住宅プロジェクト・最低限部材の被覆、などの事例が紹介された。
  海外の中高層の例として、2008年ロンドン・9Fマンション、イタリア・7Fマンション、スウエーデン8Fマンション、2009年米・7Fマンション計画を兵庫のEデイフェンスで実大実験実施、さらにオーストリアで、2010年20階オフィス計画発表がされた。
  その他の話題として、住宅は耐震性が向上したが、社寺は旧態依然である。 重要伝統的建造物群保存地区、奈良井の宿の耐震調査の町としての耐震補強のシミュレーション、木材貯蔵量比較は、森林の一キロ四方で、35,300m3, 表参道で、47,000m3の木材量がある、などについて話されましたが、誌面の都合で省略します。

※エンジニアードウッド:強度特性が工学的に計算、評価、保証された木材製品

文責:田中英彦 (木造都市研究会・木愛の会代表世話人)






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